日本におけるペット殺処分の問題は、表面的には改善の傾向を見せているものの、依然として深刻な課題として存在しています。環境省が発表した2023年度の統計によると、犬猫合わせて年間9,017頭が殺処分されており、内訳は犬が2,118頭、猫が6,899頭という結果となりました。これは前年度から2,889頭減少し、過去最少を更新したものの、毎日約25頭のペットが命を失っている計算となります。

2023年度 殺処分統計データ

9,017頭
犬:2,118頭 / 猫:6,899頭
1日あたり約25頭(犬:約6頭、猫:約19頭)
※環境省発表データ(2023年4月~2024年3月)

この数字を長期的な視点で見ると、2012年時点では全体で161,847頭が殺処分されていたことから、約15万頭以上の減少を達成したことになります。2004年度には犬だけで155,870頭が殺処分されていた状況と比較すれば、動物愛護の意識向上と関係者の努力により、大幅な改善が実現されたことは事実です。

殺処分が行われる背景と分類

環境省は殺処分を三つのカテゴリーに分類しています。第一に、治癒の見込みがない重度の病気や怪我を負っている場合、または攻撃性が高く人間や他の動物に危害を加える恐れがあるケースです。第二に、譲渡先が見つからない、または施設の収容能力の限界により飼養が困難と判断された場合です。第三に、引き取り後に病気や衰弱により死亡してしまったケースが該当します。

注目すべき点として、殺処分ゼロを達成している自治体でも、第一と第三のカテゴリーによる処分は発生しています。例えば徳島県や香川県では、適切な譲渡先が見つからないことによる殺処分はゼロとなっているものの、医療的な理由や攻撃性の問題により、やむを得ない処分が行われている実態があります。

人間の身勝手による持ち込みの実態

保健所への持ち込み理由を分析すると、引越しや経済的理由、飼い主の高齢化といったやむを得ない事情も存在する一方で、極めて身勝手な理由も報告されています。具体的には、トイレのしつけができない、鳴き声がうるさい、子供が飽きた、見た目が可愛くない、排泄物の処理ができないなど、飼育前に予測可能な理由での放棄が後を絶ちません。こうした無責任な飼育放棄は、動物福祉の観点から重大な問題として認識される必要があります。

犬と猫の殺処分における相違点

統計データから明らかなように、猫の殺処分数は犬の約3倍以上となっています。この背景には、猫の繁殖力の高さと、所有者不明の野良猫が多数存在することが影響しています。犬の引き取り状況を見ると、飼い主からの引き取りが全体の12パーセント、所有者不明の引き取りが88パーセントを占めており、迷子や負傷、野犬のケースが大半を占めております。

保健所に持ち込まれた犬猫は、自治体の条例に基づき短ければ二、三日、長くても一週間程度の収容期間が設けられます。この期間内に飼い主への返還や新しい里親への譲渡が実現しない場合、動物愛護センターに移送され殺処分の対象となります。近年では、動物保護団体が積極的に保健所から引き取りを行い、譲渡活動を展開することで殺処分数の減少に大きく貢献しています。

殺処分ゼロを実現した地域の取り組み

広島県の成功事例

かつて犬の殺処分数が全国ワースト1位であった広島県では、ピースワンコ・ジャパンという動物保護団体の活動により、2016年以降、殺処分機の稼働を停止し続けています。2024年8月時点で8,100頭以上の犬を保護し、4,300頭以上を新しい家族と結びつけることに成功しています。この実績は、民間団体と行政の連携により実現可能な成果を示す重要な事例となっています。

奈良県奈良市は、2019年から四年連続で犬猫殺処分ゼロを達成しています。この成功の背景には、2015年度から本格的に開始された取り組みがあります。具体的には、ふるさと納税を活用した犬猫サポート寄附金の設置により、2022年度には2,017件、7,780万円の寄付を集め、これらの資金を子猫用ミルク、フード、医薬品の購入、譲渡ボランティアへの支援、野良猫の避妊去勢手術費用などに充当しています。

岡山市保健所では、独自の施設「ZOOねるパーク」を運営し、野犬の捕獲保護だけでなく、一般家庭で飼育できるよう訓練を実施しています。2017年から殺処分ゼロを達成している同市では、当初は人手や設備の不足により動物愛護団体に大きな負担をかけていましたが、保健所が主体的に訓練施設を開設することで、より多くの犬を譲渡可能な状態に育成することに成功しました。

里親制度の現実と課題

里親として犬猫を迎え入れることは、命を救う直接的な行動となります。しかしながら、保護団体や動物愛護センターでは、適切なマッチングを実現するため、厳格な審査基準を設けています。年齢や経済能力、飼育環境、家族の同意、万が一の際の預け先の確保など、多岐にわたる条件が設定されており、これは再び飼育放棄されることを防ぐための必須要件となっています。

保護団体が抱える課題として、収容能力の限界が挙げられます。自治体が引き取りを制限することで殺処分数は減少していますが、その結果として民間の動物保護団体に保護要請が集中しています。団体側にも収容キャパシティや人的資源、資金面での限界があり、過剰な保護活動は多頭飼育崩壊を招くリスクも孕んでおります。この構造的な問題の解決には、根本的な対策が必要とされています。

根本的な問題への対処

保護が必要な動物を減らすためには、繁殖業者の適正な管理、行政による厳格な指導、一般飼養者への不妊去勢手術の啓発、衝動買いの防止、地域における野良猫対策など、多面的なアプローチが求められます。単に殺処分数を減らすだけでなく、不幸な動物が生まれない社会システムの構築こそが、真の解決策となるのではないでしょうか。

私たちにできる具体的な支援方法

里親として動物を迎え入れることが最も直接的な支援となりますが、それが困難な場合でも多様な支援方法が存在します。動物保護団体へのボランティア活動として、譲渡ボランティア、ミルクボランティア、災害時の保護活動などに参加することが可能です。譲渡ボランティアは保護犬を一時的に預かり適切な里親を探す活動であり、ミルクボランティアは哺乳が必要な幼齢動物の世話を担います。

経済的支援も重要な貢献方法となります。保護犬猫の飼育には、日々の食費、医療費、施設の維持管理費、啓発活動の費用など、継続的な資金が必要となります。認定NPO法人への寄付は税制優遇の対象となり、ふるさと納税を活用した支援も可能です。また、SNSを通じた情報拡散や、動物愛護に関する啓発活動への参加も、社会全体の意識向上に寄与する重要な活動となります。

ペット飼育に関する責任ある意思決定

動物愛護法により、ペットの終生飼養は法的義務として定められています。ペットを迎え入れる前には、高齢化に伴う介護の必要性、長期にわたる経済的負担、住居環境の変化への対応、万が一の際の責任ある対処など、多角的な検討が必須となります。衝動的な決断ではなく、十分な情報収集と家族間での協議を経た上で、慎重に判断されることが求められます。

特に注意すべき点として、ペット可の住宅への引越しの可否、転勤や家族構成の変化への対応、アレルギーの発症リスク、長期的な医療費の負担能力など、将来起こりうる様々な状況を想定しておく必要があります。これらの責任を全うできる確信が持てない場合は、飼育の決断を見送ることも、動物に対する真の愛情表現といえるでしょう。

まとめ:社会全体での取り組みの必要性

日本における犬猫の殺処分問題は、年々改善の傾向を見せているものの、依然として年間9,017頭もの命が失われている現実があります。この問題の解決には、個人の意識改革と責任ある行動、動物保護団体の継続的な活動、行政による適切な施策と指導、そして社会全体での動物福祉への理解促進が不可欠です。

殺処分ゼロという目標は、単に数字をゼロにすることではなく、すべての動物が適切な環境で幸せに暮らせる社会を実現することを意味しています。そのためには長期的な視点に立ち、根本原因への対処と継続的な取り組みが求められます。一人ひとりができることから始め、社会全体で動物の命を守る文化を育んでいくことが、私たちの世代に課せられた責任であると考えます。

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